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腎臓病・膵炎対応手作り療法食|チキン&ライス

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腎臓病とすい炎を併発しているわんちゃんのために。市販の療法食では解決できない難題に、手作りごはんが答えを出します。

 「腎臓病ですね。でも、以前すい炎になった事があるから、腎臓病用の療法食はあきらめて、低脂肪食を続けましょう。腎臓病よりもすい炎の再発の方が怖いですから。」

「すい炎です。今まで腎臓病の療法食をたべてきたけど、もうこれは続けられないですね。低脂肪食に切り替えて、腎臓についてはサプリメントで頑張りましょう!」

こんな台詞を獣医さんから言われたことはないでしょうか? これ、実際によく直面する問題なんです。

 

すい炎は犬ではよく見られる病気で、原因ははっきりわからない場合が多いですが、高脂肪の食餌がひとつのリスクであると考えられています。一方、腎臓病用の特別療法食は、ほとんどの製品が高脂肪に設計されており、すい炎の子には適さないものとなっています。

「腎臓病とすい炎、両方持ってるうちの子は何を食べたらいいの?」 切実な問題です。

 

急激に腹痛や嘔吐などの激しい症状を起こし、時に死に至ることもある病気ーすい炎と、ゆっくりと進行し、末期になるまで明らかな症状の出ない病気ー腎臓病を比較すれば、すい炎を優先するべきと考えるのが自然でしょう。獣医さんたちは間違った事を言っているわけではありません。でも、本当にそれしか選択肢がないのでしょうか?低脂肪で腎臓病にも配慮したごはんがあればいいのに…

 

あきらめる必要はありません。手作り食であればそれを作ることができます。今回は、腎臓病とすい炎(およびその他の脂肪制限が必要な疾患)を両方抱えたわんちゃんのための、低脂肪に調整した腎臓病用手作り食レシピをご紹介します。

 

材料

とり胸肉(皮なし)                        100g
鶏卵                                           L1個
ごはん                                           350g(1合)
粉飴(マルトデキストリン)       65g
キャノーラ油                                小さじ2
野菜類                                          合計100g程度まで
減塩しお(塩分50%)             2g
昆布                                             0.5~1g
炭酸カルシウム                           1g
オメガ3濃縮魚油                       2カプセル
マルチビタミン                           成人1日量
マルチミネラル                          成人1日量
亜鉛                                           成人1日量

 

作り方

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①とりむね肉、キャノーラ油、減塩しお、こんぶを水1カップとともに煮込んでいきます。野菜を入れる場合はここで柔らかくなるまで煮ておきます。見本ではかぼちゃとパセリを使用しました。

 

②火が通ったら溶き卵を流し入れ、一煮立ちさせてから火をとめ、粉飴を加えてよく混ぜて溶かします。

 

③粗熱をとってからサプリメント類を加えます。フィッシュオイルはカプセルを開けて中身のみ使用します。

 

④炊飯したごはんを加えてよくまぜます。


栄養バランス 

(単位:g/1000kcal) 特別療法食 このレシピ
タンパク質           35~40 40
脂肪                      45~50 20
EPA+DHA        1.2~1.9 1.7
カルシウム               1~1.5 0.7
リン                          0.5~0.9 0.5
カリウム                   1.5~2.2 1.2
ナトリウム               0.3~0.9 0.5

このレシピのカロリーは約970kcalです(野菜を除く)。市販の腎臓病用特別療法食と比べ、脂肪を約6割削減しています。

 

キャノーラ油

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脂肪は生命維持のために重要な働きをしている栄養素でもありますので、むやみやたらに制限すればよいというものではありません。もしも、まったく油を使わずにレシピを作成すると、それは"超"低脂肪食になってしまいます。超低脂肪食は、必須脂肪酸の欠乏や、脂溶性ビタミンの吸収障害などの問題を起こすリスクのある食餌で、治療のために必要な場合は専門家による厳密な管理が必要です。

すい炎の管理が目的であれば、通常そこまでの脂肪制限は必要ではありません。すい炎のリスクを減らし、かつ、欠乏症を起こさない程度に脂肪の量を調整してレシピを作成しています。キャノーラ油は必須脂肪酸であるリノール酸をほどほどに含んでいるので、リノール酸の要求を満たしつつ、脂肪の総量を減らすのに適しています。

 

マルトデキストリン(粉飴)

油の使用量を減らせば低脂肪にはなりますが、同時にカロリーが減ってしまいます。腎臓病ではしっかりとカロリーを摂取して、体重を減らさないことが大切です。減った分のカロリーは純粋な炭酸化物であるマルトデキストリンで置き換えることで、ほとんど食事量を増やすことなく、カロリーを減らさずに低脂肪食にすることが可能になります。

 

フィッシュオイル(オメガ3濃縮型)

フィッシュオイルに含まれるEPADHAなどのオメガ3脂肪酸には、炎症を抑える作用があります。腎臓病のためにも、すい炎のためにも、ぜひ摂取したい成分です。

オメガ3脂肪酸を十分に摂取しつつ、脂肪の総量を減らしたいときに便利なのが、オメガ3脂肪酸を濃縮したタイプのフィッシュオイルです。通常のフィッシュオイルでは1g中に含まれるオメガ3脂肪酸は約300mgですが、濃縮された製品では約750mgとなっています。

 

 

おわりに

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2019年現在、犬の腎臓病とすい炎、両方に完全に対応した市販の特別療法食はありません。手軽に使える療法食ができれば、多くの患者さんが救われることになります。ぜひフードメーカー各社には頑張っていただきたいですね。

 

手作り食は、市販の療法食がカバーできない領域、特に複数の病気を抱えた患者さんに対して、オーダーメイドで最適な食餌を提供できる可能性があります。病気と戦うわんちゃんをサポートする飼主様のため、このブログがお役にたてれば幸いです。

 

【免責事項】

紹介したレシピは、すべての腎臓病および膵炎の患者さんに適したものであることを保証するものではありません。かかりつけの獣医師の指導のもとで使用してください。ご利用は自己責任でお願いします。無断転載はご遠慮ください。

(2020.2.15)記事・レシピを更新しました