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慢性腎臓病(CKD)とは?

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犬の慢性腎臓病(CKD)を知っていますか?ペット保険各社の統計によれば、腎臓病を含む泌尿器疾患は、犬の死因の上位3位に含まれています。「がん」と「心臓病」に並ぶ、わんちゃんの三大疾病の一つと言えるかもしれません。このページでは慢性腎臓病とはどのようなものか?本質的な部分に絞り、できるかぎりわかりやすく説明してみたいと思います。

目次

慢性腎臓病とは?

慢性腎臓病(chronic kidney desease:CKD)とは、進行性に(徐々に悪化する)、不可逆的に(元に戻らない)腎臓の機能が失われてしまう病気の総称で、単一の病気の名前ではありません。実際には原因が解明されていないものも含めて様々な腎疾患がありますが、これらを区別せず、便宜上使われる"とりあえず"の病名が「慢性腎臓病」ということになります。

なお、「慢性腎不全」という言葉は古い用語で学術的にはすでに使用されなくなっていますが、日常診療の場面ではまだ使われていることがあるかもしれません。「慢性腎不全」=「慢性腎臓病」と読み替えて差し支えありません。

腎臓の機能

さて、慢性腎臓病では腎臓の機能が失われると言いましたが、そもそも腎臓の機能とはどのようなものでしょうか?腎臓は大きく分けると次の3つの機能をはたしています。 

1.水分の調節

f:id:vet-nutrition:20211125173826j:plain腎臓は体内の水の量をコントロールしている最も重要な臓器です。体内に水分が余計にあるときには薄い尿をたくさん排泄し、水分が少ない場合には濃縮された尿を少量排泄することによって、体内の水分量を一定に保つように働いています。この機能が低下すると、腎臓病の代表的な症状である多飲多尿(水を飲む量とおしっこの量が増える)が起こってきます。さらに病状が進行すると、いくら水を飲んでも水分の不足を補うことができず、脱水状態になってしまうこともあります。

2.老廃物の排泄

f:id:vet-nutrition:20211125174239j:plain動物は食物から栄養を摂取することによって活動のエネルギーを得ています。同時に、古くなった細胞は壊されて常に新しいものに置き換わっています。これが代謝です。代謝の結果として、老廃物が必ず生成されてしまいます。腎臓は、血液からこうした老廃物をろ過し、尿として排泄する仕事をしています。したがって、腎機能が低下すると老廃物が血液中に溜まってくるようになります。これがいわゆる尿毒素です。なお、尿毒素は単一の物質ではなく、数百種類以上存在すると言われています。

血液中に尿毒素が溜まってくると、食欲不振、嘔吐や下痢、口内炎などの消化器症状、精神神経系の異常など様々な症状が起きてくるようになります。こうした症状のことをひとまとめに尿毒症と呼んでいます。尿毒症が明らかに見られるようになるのは、腎臓病がかなり進行した段階です。

3.ホルモンの分泌

f:id:vet-nutrition:20211125174301p:plain腎臓は水や老廃物の排泄器官であると同時に、ホルモンをつくる内分泌器官でもあります。腎臓でつくられる代表的なホルモンが、骨髄での赤血球の産生をうながす造血ホルモンのエリスロポイエチン(EPO)です。腎臓病ではエリスロポイエチンの不足によって貧血が見られることがよくあります。貧血は尿毒症と相まって、体調を悪化させる大きな要因となっています。

腎臓の機能単位ネフロン

f:id:vet-nutrition:20211125174338j:plain腎臓の機能を語る上では、腎臓の「構造」を無視することはできません。続いて腎臓の構造についてみてみましょう。腎臓はおなかの中、左右に1個ずつあり、よく知られた"そら豆"のような形をしています。大動脈から分かれた血管が直接流入し、常に大量の血液を受け入れています。

腎臓の内部はネフロンという微小な構造の集合体です。犬の場合、2つの腎臓あわせて約80万〜100万個のネフロンがあると言われています。個々のネフロンはそれぞれ独立して尿をつくっており、それらを足し合わせたものが全体としての尿になります。

ネフロンの構造をさらに細かくみると、糸球体(しきゅうたい)と尿細管(にょうさいかん)という2つの部位からなっています。糸球体は毛細血管の塊で、ここを通るときに血液がろ過され、尿のもと(原尿)が作られます。次に原尿が尿細管の中を通って流れていく過程で、水分や体に必要な栄養素などが再吸収されて最終的におしっこが作られます。

腎臓病とネフロンの破壊

f:id:vet-nutrition:20211125174444j:plain慢性腎臓病とはネフロンが少しずつ壊れて、その数が減っていく病気です。腎機能は残っているネフロンの数に比例する、と考えていいでしょう。

ネフロンの一部が壊れると、残ったネフロンがその分多くの仕事をすることで、腎臓全体としての腎機能を維持しようとします。これを腎機能の代償といいます。しかし、このとき残ったネフロンには通常以上の負担がかかっているため、後々さらにネフロンの破壊が進む原因になってしまいます。無理をして働いたネフロンは、それだけ早く寿命が尽きてしまうとも言えるでしょう。これが慢性腎臓病が"進行性"であることの理由となっています。最初にネフロンが壊された理由、すなわち腎臓病の原因がなんであったかには関係なく、慢性腎臓病は時間とともに進行していくのです。

そして、一度壊れたネフロンは二度と再生することはありません。これが慢性腎臓病は治ることがない、"不可逆性"の理由となっています。

慢性腎臓病の原因

f:id:vet-nutrition:20211125174541j:plain慢性腎臓病でネフロンが壊れてしまう原因にはどのようなものがあるのでしょうか?表に示すように様々なものが原因になり得ることがわかっています。しかし、個々の患者さんについて具体的な原因がはっきり特定されることは多くありません。これは最初にネフロンが壊れた原因がなんであっても最終的には同じ姿になってしまうという、慢性腎臓病の性質が関連しています。

幸いにも慢性腎臓病の治療は原因にかかわらず共通している部分が多くあります。しかし、きちんと診断がされなければ、特殊な治療が必要な腎疾患、または腎臓以外の疾患が見逃されてしまう可能性もあるかもしれません。慢性腎臓病が疑われた場合は、治療可能な原因が見つからないか、全身の状態を詳しく確認することが大切です。

おわりに

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残念ながら現時点で慢性腎臓病を根治させる治療法はありません。しかし、これはまったく治療ができないという意味ではありません。腎機能が回復することはないとしても、治療によって症状を改善したり、残っている腎機能を温存することによって寿命を伸ばすことができる可能性があるからです。慢性腎臓病の愛犬のためになにができるのか?是非学んでいただければと思います。