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腎臓病の薬|消化器症状の治療

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腎臓病が進行すると、食欲不振、おう吐、吐き気、胃潰瘍などの消化器症状がみられることが多くなってきます。このページでは腎臓病による消化器症状の概要と獣医学的な治療法について解説します。

 

目次

 

尿毒症症状の治療

消化器症状は腎臓病による尿毒症の代表的な症状です。尿毒症とは、本来腎臓から尿中に排泄される毒素(尿毒素)が、血液中に蓄積してくることで起こる症状のことを言います。

血液中の尿毒素を減らすことを目的とした長期的な管理法として、食餌療法活性炭療法食プロバイオティクスなどがあります。ただ、これらはどちらかと言えば、"これから尿毒症症状が起きないように"という予防的な意味合いが強く、すでに起きてしまった症状を抑え込む力はあまりありません。

今まさに起きている症状を抑えるためには、輸液療法も大切ですが、それぞれの症状に対する薬剤による治療も必要になることがあります。

 

消化管粘膜の傷害

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尿毒症症状の一つとして、胃潰瘍などの消化管粘膜傷害があります。胃潰瘍は胃痛、むかつき、吐き気、おう吐、食欲不振などの症状を起こす他、慢性的な出血によって貧血の原因になることもあります。

腎臓病で胃潰瘍が起こる原因の一つに、胃酸の過剰な分泌があります。胃酸の分泌はガストリンというホルモンによって調節されていますが、ガストリンは腎臓でろ過されて分解されるホルモンであるため、腎機能が低下するとともに血液中の濃度が上昇してきます。すなわちガストリンは過剰な胃酸の分泌を引き起こす、尿毒素の一種であると言えるでしょう。

胃潰瘍の治療には胃酸の分泌を抑える薬(制酸剤)を使用します。代表的な制酸剤を以下にまとめます。

 

ヒスタミンH2ブロッカー

最も代表的な制酸剤で、胃酸の分泌をうながすヒスタミンの作用をブロックすることで効果を発揮します。ファモチジンガスター®︎)は腎臓病の子でも安全性が高いため、よく使用されています。

 

プロトンポンプ阻害薬

ガストリンによる胃酸過多はヒスタミンとは別のメカニズムで起こるため、H2ブロッカーでは十分な効果が得られない可能性があります。オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害薬は、H2ブロッカーよりも強力な制酸剤で、ガストリンによる胃酸過多にも有効であると考えられます。ただし、人では長期的な使用による副作用が報告されているため、漫然と使い続けるのは避けたほうが良いかもしれません。

 

制酸剤の注意点

制酸剤は消化器症状に対する治療の中心となる薬です。しかし、胃酸は本来食物の消化や、病原微生物の殺菌などにも一役買っているため、胃酸の分泌を抑えてしまうことにはデメリットもあります。

栄養素や薬の中には、胃酸と反応することでその効果を発揮するものがいくつかあります。例えば、炭酸カルシウムはカルシウムのサプリメントとして、またリン吸着剤としても使用されますが、制酸剤を併用することで十分な効果を発揮できなくなる可能性があります。

長期的に制酸剤を使用する場合は、栄養素の不足は生じていないか?併用する薬の作用は損なわれていないか?慎重に観察する必要があるでしょう。

 

おう吐・吐き気

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腎臓病では胃潰瘍などがない場合でも、吐き気が起こることがあります。これは脳の視床下部にある嘔吐中枢が尿毒素によって直接刺激されることによるものです。この場合、消化管に作用する薬だけでは吐き気を抑えることは難しいため、嘔吐中枢に直接作用して吐き気を抑える薬が使用されます。

 

中枢性制吐薬

嘔吐中枢に直接作用する吐き気止めとして、マロピタントオンダンセトロンという薬が使用されます。マロピタント(セレニア®︎)は現在使用できる薬の中では最も強力な吐き気止め作用をもつ薬と考えられ、尿毒症による吐き気にも効果が期待されています。痛み止め効果や、せき止め効果もあるという面白い薬です。

オンダンセトロンは飲み薬の吸収率が悪く、マロピタントと比べると効果は弱いかもしれません。マロピタントだけでは効果が十分でない場合に併用することが可能です。

 

消化管運動機能改善薬

メトクロプラミドモサプリドなどの薬は一般的に制吐剤として使用されていますが、これらはどちらかというと腸の動きを改善することでおう吐を抑えるもので、嘔吐中枢への直接作用はないか弱いものです。腸の運動機能低下が関わっている場合には有効なケースもあるかもしれませんが、尿毒症による吐き気に対する効果はそれほど期待できないかもしれません。

 

食欲不振

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腎臓病では消化管傷害や吐き気とは関係なく、食欲そのものが低下してくることもあります。

食欲は脳の視床下部にある中枢でコントロールされていますが、ここにも尿毒素は直接作用すると考えられます。レプチンコレシストキニンといった、健康時に食欲を抑えるはたらきをしているホルモンが、尿毒素として作用している可能性も指摘されています。

胃潰瘍や吐き気の治療をしても食欲不振が改善しない場合には、食欲を刺激する薬が使われることがあります。

 

グレリン受容体作動薬

食欲を増やすはたらきをしているのがグレリンというホルモンです。このグレリンと同じ作用をするのがカプロモレリン(ENTYCE®︎)という薬です(日本では未承認ですが、海外製の薬が輸入可能です。)食欲増進作用とともにタンパク同化作用もあるため、筋肉量を維持する効果にも期待されています。

 

抗うつ薬・抗ヒスタミン薬・抗てんかん

一部の抗うつ薬(ミルタザピン)や、抗ヒスタミン薬(シプロヘプタジン)などには副作用として食欲増進作用があることが知られており、この目的で使用されることがあります。

てんかんなどの持病がある子の場合、食欲増進作用のあるフェノバルビタールなどの抗てんかん薬がより適しているかもしれません。

 

ステロイド

副腎皮質ステロイド剤にも副作用として食欲増進作用があります。しかし、ステロイドには体のタンパク質を分解する方向に代謝を動かしてしまう、好ましくない副作用があります。これにより尿毒症の症状が悪化し、筋肉量が減少して衰弱が進むおそれもあるため、食欲増進だけを目的として使用することはおすすめできません。ただし、併発疾患の治療のために必要な場合はこの限りではありません。

 

おわりに

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腎臓病による消化器症状に対する獣医学的な治療法について紹介してきました。

今回紹介したような治療法を行っても、十分なカロリーを摂取することができなくなった段階では、体にチューブをつけて流動食を与えることも選択肢になるかもしれません。

腎臓病の子にとって「ごはんを食べられない」ことはたいへん危険な状態であり、一気に衰弱が進んでしまう可能性もあります。腎臓病のわんちゃんの食欲不振は軽く考えず、はやめに獣医師に相談するようにしましょう。

 

【免責事項】

 記事は現在の獣医学的知見に照らし、標準的と思われる内容を記載していますが、個別の患者様に対する効果を保証するものではありません。実際の治療にあたっては獣医師にご相談ください。

 

【参考文献】

・Textbook of Veterinary  Internal Medicine 8th ed.(2017)

・Rhodes L, Zollers B, Wofford JA, Heinen E. Capromorelin: a ghrelin receptor agonist and novel therapy for stimulation of appetite in dogs. Vet Med Sci. 2017;4(1):3-16.