vet's kitchen ALICE

腎臓病とたたかうワンコのための総合情報提供サイト

カルシウム|手づくり食のためのサプリメント

f:id:vet-nutrition:20190704102033j:plain

わんちゃんの腎臓病用手作り食のための、カルシウムサプリメントの選び方・使い方を解説します。

わんちゃんの手作り食で、最も不足する栄養素は何でしょう?おそらくカルシウムではないかと思われます。食餌からのカルシウムが不足すると、自身の骨に蓄えているカルシウムを持ち出して使うことになります。そのため、骨がもろくなって骨折しやすくなるなどの問題が起こる可能性があります。

 特に腎臓病の場合には、ホルモンバランスが変化して、骨からカルシウムを吸収する傾向が強くなっていることがあります(上皮小体機能亢進症)そのため、手作り食には十分な量のカルシウムを加えなければなりません。

 筆者はわんちゃんの手作り食を作る際、サプリメントを使用して栄養バランスをとっていく手法を推奨しています。今回はカルシウムのサプリメントの使い方を詳しく解説していきたいと思います。

 

食材だけでは不十分?

f:id:vet-nutrition:20190624121709j:plain

カルシウムの豊富な食品はいくつか知られていますが、こうした自然の食材から十分なカルシウムを摂取することはできないのでしょうか?結論から言うと"腎臓病のための"手作り食に限ると、かなり難しいと言えます。その理由は、"腎臓病ではタンパク質とリンの制限が必要である"という事実によります。

 下の表に、カルシウムを多く含む食品の、タンパク質、リン、カルシウムの含有量をまとめました。動物性食品でカルシウムを多く含むものは、タンパク質やリンも多く含んでいることがわかると思います。

 

タンパク質(g)

カルシウム  (mg)

 リン     (mg)

牛乳         26        894          740 

ヨーグルト

        29        976       813
チーズ             41       1145      1327
煮干し           77       2610      1779
小松菜           27       2500        767

 (乾燥重量100g当たり)

 

つまり、これらの食品から十分なカルシウムを摂ろうと思うと、タンパク質やリンを制限することができなくなります。腎臓病による症状を改善したり、進行を抑えたりするための「療法食」を設計することが極めて困難になってしまうのです。

 

f:id:vet-nutrition:20190703101928j:image

では、野菜はどうでしょうか?小松菜などは野菜の中では豊富にカルシウムを含み、かつリンも比較的少ないため、一見すると腎臓病に適しているように思えます。しかし、この場合問題になるのは必要な量です。仮に小松菜だけでカルシウムの必要量を満たそうとした場合、ごはん1000kcalあたり、約400gの小松菜を加えなければなりません。不可能ではないにしても、毎日この量を食べろと言われたら、かなり苦しいのではないでしょうか?大量の野菜を加えることで、味が悪くなってしまう可能性もあります。やはり腎臓病の場合、天然の食材だけで栄養要求を満たすことは現実的ではないように思います。

 

カルシウムサプリメント

f:id:vet-nutrition:20190703101949j:image

人用のカルシウムサプリメントには様々な製品が販売されています。しかし、多くはカルシウム単体のサプリメントではなく、マグネシウムビタミンDなど他の成分も含まれているものが多いようです。これらカルシウム以外の栄養成分は、他のサプリメントとの兼ね合いもあるため、できれば余計に摂取したくはありません。人用のカルシウムサプリメントには、わんちゃんの手づくり食のために使いやすい製品は少ないように思います。

 

炭酸カルシウム(食品添加物用)

f:id:vet-nutrition:20190607210248j:image

腎臓病のための手づくり食では、カルシウム源として「炭酸カルシウム」を使うことをおすすめします。最も安全に使用でき、かつ安価だからです。

 炭酸カルシウムは「胃酸」によって溶かされることによって、初めて吸収できるようになるという性質があります。このとき酸を消費するので、体をアルカリ化させる作用ももっています。腎臓病では体に酸が蓄積しやすくなるため、この意味でも炭酸カルシウムは腎臓病に適したものになっています。

 食品添加物用のものは純粋な炭酸カルシウムで、他の成分は一切含まれていません。また、細かいパウダー状なので、味や食感を悪くすることがありません。水に溶けないのが欠点と言えば欠点ですが、通常は特に問題にはなりません。

 

栄養基準

次に、カルシウムの与えるべき量について考えていきます。参考とするために、AAFCOの栄養基準を挙げておきます。

  最小値 最大値
乾燥重量% 0.5 1.8
1000kcalあたりg 1.25 4.5
カルシウム:リン比 1:1 2:1

「カルシウム」と「リン」それぞれについて「乾燥重量%」と「1000kcalあたりg」の基準があり、それとは別に「カルシウムとリンの比率」の基準があります。腎臓病用の療法食を設計するとき、カルシウムについては「リンとの比率」の基準を使います。腎臓病ではリンの制限が必要になるため、それに応じてカルシウムの量も減らす必要があるからです。そのため、%やgでみると基準を下回るケースが多くなります。

 もし、リンは制限してカルシウムだけ通常の基準のほうを採用すると、リンの量に対してカルシウムが過剰になってしまいます。余分なカルシウムは、リンの吸収を抑える働きがあるため、逆にリンが制限されすぎて不足するという事態も起こり得てしまいます。カルシウムはたくさん摂ればいい、というものではありませんので注意しましょう。 

腎臓病のわんちゃんのための手作り食を作る場合、ごはん1000kcal分に対して炭酸カルシウム約1gを加えると、おおよそ適切なカルシウム量になるようです。なお、炭酸カルシウム1g中には約400mgのカルシウムが含まれます。実際の使用量については各レシピを参照してください。

 
その他のカルシウム剤

腎臓病のときに絶対に使ってはいけないのが、「リン酸カルシウム」です。腎臓病で制限しなければならないリンを含んでいるからです。一部のサプリメントや医薬品で使用されていることがありますので注意しましょう。また、「骨粉」(ボーンミール)も主成分はリン酸カルシウムですので使ってはいけません。

他に、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウムなどがあります。これらは胃酸がなくても吸収できるタイプのもので、炭酸カルシウムが使えない時に代替として使用することが考えられます。これらのカルシウム剤を使う場合は、獣医師の監督のもと、定期的に血液検査を行いながら慎重に使用してください。

人用のサプリメントなどで、"吸収が良い"という文句で宣伝されているのを見かけることがありますが、吸収が良い事は必ずしも良い事とは限りません。過剰摂取のリスクもあるので、安易な使用は避けた方が賢明だと思います。

 

高カルシウム血症

f:id:vet-nutrition:20190704083959j:image

カルシウムに関連して起こる可能性のある合併症として、血液中のカルシウム濃度が異常に高くなる、「高カルシウム血症」があります。高カルシウム血症が見つかった場合、ホルモン異常や腫瘍、ビタミンDの過剰摂取など他の原因がなければ、食餌からのカルシウム摂取量が過剰なのかもしれません。獣医師の指導のもと、状況に応じて使用量を調整していきましょう。

なお、血液検査でリンとカルシウムの数値が両方とも高い、という状況は非常に危険な状態です。あまったリンとカルシウムが血液の中で結合すると、水に溶けないリン酸カルシウムの結晶となり、血管の壁にくっついて、あらゆる臓器を傷害していきます。腎臓の機能が急激に低下する原因となる可能性があるため、注意しなければなりません。

このような状況は、腎臓病が進行しているのに、きちんと食餌療法を行わずに、漫然とカルシウム系のサプリメントを使用している場合などに起こりやすくなると考えられます。わんちゃんの腎臓用サプリメントと称するものには、カルシウムを含むものが少なくありません。カルシウムを含むサプリメントを使用するときは、定期的に動物病院で血液検査をしてもらい、カルシウムとリンの数値をチェックするようにしましょう。

 

おわりに

f:id:vet-nutrition:20190704103248j:plain

腎臓病のわんちゃんの手作り食のための、カルシウムサプリメントの使い方について紹介してきました。

なお、ここでの議論はすべて「手作り食」を想定したものであることにご注意ください。腎臓病用療法食や、その他の総合栄養食など市販のペットフードは、きちんとバランスのとれた栄養組成になっています。もちろんカルシウムも十分に添加されているので、こうしたフードにさらにカルシウム剤を加えると、過剰摂取のリスクを高めてしまいます。自己判断でのサプリメント使用は愛犬を危険にさらす可能性もあります。必ず獣医師と相談のうえで使用するようにしましょう。

 

【免責事項】

紹介したサプリメントの使用方法は、すべての腎臓病の患者さんに適したものであることを保証するものではありません。かかりつけの獣医師の指導のもとで使用してください。ご利用は自己責任でお願いします。無断転載はご遠慮ください。