腎臓病の犬のための手作り食。鮭とじゃがいもを使ったレシピを紹介します。
お魚の好きなわんちゃんは多いですよね。
お魚にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの「オメガ3脂肪酸」が豊富に含まれています。オメガ3脂肪酸には腎臓病の進行を抑える効果が認められているため、ぜひ積極的に摂りたい成分です。
今回は、魚の中でも健康効果の高いとされる、「鮭(さけ・サーモン)」をつかった腎臓病用のレシピを作成しましたのでご紹介します。
材料
生鮭 | 100g |
---|---|
鶏卵 | L1個 |
じゃがいも | 600g |
キャノーラ油 | 大さじ1 |
バター | 30g |
野菜類 | 50gまで |
昆布茶 | 小さじ1/2 |
砂糖 | 小さじ2 |
炭酸カルシウム | 1ml |
フィッシュオイル | 3カプセル |
マルチビタミン | 成人1日量 |
マルチミネラル | 成人1日量 |
亜鉛 | 成人1日量 |
鮭
今回のレシピで使用する鮭は、近海物の生鮭(白鮭、秋鮭)です。当然ながら「塩鮭」は使えませんので、塩で味付けされていないことをよく確認してください。養殖ものの「銀鮭」や、刺身用の「トラウトサーモン」なども使えますが、やや脂肪分が多いので、少しレシピに手を加える必要があります。(最後に参考レシピを挙げておきます)
鮭の筋肉はきれいな赤色をしていますが、実は白身魚だと知っていましたか?鮭の赤い色はアスタキサンチンなどの色素で、この物質はβカロテンなどと同様の強い抗酸化活性を持っています。
一般的に抗酸化物質は植物に由来することが多いので、緑黄色野菜などから摂取することがすすめられますが、鮭はオメガ3脂肪酸と抗酸化物質を両方含んでいるという面白い食材です。ぜひ活用していきたいですね。
じゃがいも
今回は炭水化物源としてじゃがいもを採用しました。じゃがいもは米などよりもタンパク質が少ないので、一見すると腎臓病に適してるように思えます。しかし、栄養学的には少々クセのある食材で、いくつか注意するポイントがあります。
①カロリー
じゃがいもは比較的低カロリーであるため、同じカロリーを摂取するために必要な食事量が多くなります。大食漢のわんちゃんには向いていますが、食の細い子は食べきれない可能性があります。
②消化率
米などと比べると、消化しにくいのも欠点です。調理には十分に時間をかけて、しっかりと加熱する必要があります。しかし、消化機能の低下した高齢のわんちゃんにとっては、それでも負担になることがあります。下痢や軟便になるようであれば使用を控えてください。
③カリウム
いも類はカリウムを豊富に含んでいます。血液検査でカリウムの数値が高い場合(高カリウム血症)は、じゃがいもは避けた方が良いかもしれません。
また、高カリウム血症でない場合でも、カリウムには利尿作用があるため、尿量が増える可能性があります。腎臓病の症状の1つである、多飲多尿が悪化する可能性があるので、問題になるようであれば使用を控えましょう。
できるだけ調理過程で余分なカリウムを捨てられるように、電子レンジ調理などではなく「水煮」にすることをおすすめします。カリウムが煮汁の中に溶け出すので、ある程度減らすことができると考えられます。
バター
バターを用いる最大のメリットは植物油よりも風味がよく、おいしいという事です。栄養学的にはほぼ単なる脂肪で、バターでなければいけない理由は特にありません。
実は、当初は植物油のみでレシピを作成したのですが、これがあまりおいしくなかったので、味を改善するためにバターを使用しました。
もしかすると、バターに悪いイメージを持たれている方もいるかもしれません。確かに、バターにはある程度のトランス脂肪酸が含まれていますが、それは牛肉やラム肉でも同じこと。きちんとバランスを考えて使えば何の問題もありません。
また、人で問題になっている心筋梗塞や脳血管障害などの病気は、わんちゃんにはあまり発生がないので、そもそも脂肪やコレステロールを気にする必要性が、人ほどはないとも言えます。安心して"おいしく食べられる"ことを優先してください。
なお、通常の食塩添加されたバターを使用していますので、調味料としての塩は不要になります。
作り方
①じゃがいもは皮をむいてから、1cm角に切り、たっぷりの水で煮ていきます。20〜30分かかるので、その間に②以降の手順を進めましょう。
②鮭はグリルかオーブンで素焼きにします。ボイルでも構いませんが、焼く方が風味が良くなるような気がします。冷ましてから皮を外し、丁寧に身をほぐして小骨をとっておきます。
③溶き卵に砂糖を加え、フライパンで炒り卵にします。十分に加熱して、パラパラになるようにしましょう。
④キャノーラ油と細かく調理した野菜を火にかけ、弱火でじっくり炒めていきます。野菜に火が通ったら、バター、②の鮭のほぐし身、③の炒り卵、昆布茶をくわえます。バターが溶けて全体になじんだら火を止めます。
⑤茹で上がったじゃがいもをざるにあけ、マッシャーなどでつぶしてマッシュポテト状にします。粒が残るようであれば、裏ごしするのもよい方法です。
⑥マッシュポテトに④を合わせ、粗熱をとったらフィッシュオイル他、サプリメント類を加えます。
見本の野菜はにんじん30gと、パセリ少々を使用しました。じゃがいものレシピではカリウムの過剰を防ぐため野菜は控えめにしておきます。
栄養組成
(単位:g/1000kcal) | 腎臓病用療法食 | このレシピ |
---|---|---|
粗タンパク質 | 35〜40 | 40 |
粗脂肪 | 45~50 | 53 |
リノール酸 | 5 | 4.0 |
EPA+DHA | 1.2~1.9 | 1.6 |
カルシウム | 1~1.5 | 0.7 |
リン | 0.5~0.9 | 0.5 |
カリウム | 1.5~2.2 | 2.5 |
ナトリウム | 0.3~0.9 | 0.6 |
このレシピの計算上の総カロリーは970kcalです。※野菜を除く
バリエーション
刺身用としてよく売られている「トラウトサーモン」は厳密には鮭ではなく、海で養殖したニジマスです。これを使ったレシピも紹介しておきます。
なお、刺身用であっても、腎臓病のわんちゃんに生で与えることはおすすめしません。腎臓病によって免疫力が低下している可能性があり、食中毒のリスクが通常よりも高いためです。きちんと加熱してから与えるようにしましょう。
刺身用トラウトサーモン | 120g |
---|---|
鶏卵 | L1個 |
じゃがいも | 600g |
キャノーラ油 | 小さじ2 |
バター | 30g |
野菜類 | 50gまで |
昆布茶 | 小さじ1/2 |
砂糖 | 小さじ2 |
炭酸カルシウム | 1ml |
マルチビタミン | 成人1日量 |
マルチミネラル | 成人1日量 |
亜鉛 | 成人1日量 |
おわりに
魚は他の食材と比較すると、栄養価の個体差が大きいと言えると思います。例えば、同じ魚種でも漁獲された場所や季節によっても栄養価は異なりますし、同じ個体でも部位によって異なります(トロと赤身)。そのため、計算上の栄養価はあくまでも参考とお考えください。同じレシピを毎日食べ続けるのでなければ、大きな影響はないはずです。
今回は新しい食材にチャレンジしましたが、様々なレシピをレパートリーとして持っておくことは大切だと考えています。
腎臓病のわんちゃんは食欲にムラが出ることも多いので、人の食事と同じように、毎日違うものを食べさせることが、食欲を維持するための一つの秘訣であったりします。
"これなんだろう?食べてみたい"という「興味」は、食べるという行為の一番最初のステップになり得ると思っています。手作りごはんの可能性は無限です。是非、様々なレシピにチャレンジしてみてください!
【免責事項】
紹介したレシピは、すべての腎臓病の患者さんに適したものであることを保証するものではありません。かかりつけの獣医師の指導のもとで使用してください。ご利用は自己責任でお願いします。無断転載はご遠慮ください。