vet's kitchen ALICE

腎臓病とたたかうワンコのための総合情報提供サイト

腎臓病とリンの管理

f:id:vet-nutrition:20200228233122j:image

慢性腎臓病ではリンのコントロールが重要です。このページではリン制限の概要とリン吸着剤治療について解説します。

 

目次

 

血清リンとは

f:id:vet-nutrition:20200226214100j:image

リンは細胞膜をつくるリン脂質、エネルギーの通貨ATP、遺伝情報のDNAなど、生命そのものの本質を構成する極めて重要なミネラルです。

食餌から摂取されたリンは、体内で様々な代謝を経て、最終的に腎臓から排泄されることでバランスを保っています。しかし、腎臓病になると徐々にリンを排泄することが難しくなってきます。

血液中にリンが過剰にある状態が続くと、ホルモンバランスが乱れて上皮小体機能亢進症と呼ばれる状態になります。これによって腎臓病がより早く進行し、死亡率も上昇することが明らかになっています。

腎臓病の進行を遅らせ、寿命を延長するためには、血清リンを適切な範囲にコントロールすることが重要なのです。

 

ガイドラインと目標値

慢性腎臓病の治療ガイドライン(IRIS)では血清リンの目標値として、2.7〜4.6mg/dlを設定しています。この目標値は血液検査の参照値(正常値)とは異なるものである点に注意が必要です。リンの数値が参照値の範囲内であっても、すでに上皮小体機能亢進症を起こしていることがあるため、参照値よりも低い数値が目標値として設定されているのです。腎臓病での血清リンは「正常の範囲内だから大丈夫」ということにはなりませんのでご注意ください。

 

リン制限食(療法食)

f:id:vet-nutrition:20200226214140j:image

血清リンの目標値を達成するためには、食餌に含まれるリンの量を制限することが第一です。一般的な総合栄養食に含まれるリンの量は乾燥重量として0.4〜0.8%となっています。一方、腎臓病用の療法食では0.2〜0.5%が推奨されています。数字が小さいので一見大きな違いではないようにも思えてしまいますが、割合でいえば50%ほど削減されていることになります。多くの腎臓病用療法食はリンに関して総合栄養食の基準を満たしていないため、腎臓病でない子にとっては栄養不足となる可能性もあるため注意しましょう。なお、手作りでも市販療法食に匹敵するレベルの低リン食をつくることができます。詳しくはレシピページを参照してください。

 

リンを多く含む要注意食材

f:id:vet-nutrition:20200228232240j:image

タンパク質を多く含む食材には、同時にリンも多く含まれていることが多く、また動物性食品に含まれるリンは吸収率が高いため注意が必要です。特にリンを多く含む食材として次のようなものがあります。

  • 乳製品(ミルク、チーズ、ヨーグルトetc)
  • 動物の骨
  • 煮干など小魚類(骨を一緒に食べるもの)
  • レバー
  • 食肉/魚肉加工食品

これらは腎臓病のわんちゃんには原則として与えないのが無難です。どうしてもその食材を使いたい事情があるときは専門家の意見を仰ぎましょう。

また、こうした食材は"おやつ"やごはんの"トッピング"などとして与えられることが多いため、特に注意しなくてはなりません。せっかく療法食を食べていても、こうしたおやつのせいで治療効果が薄れてしまうことも十分に考えられます。おやつをあげたいときは、療法食のフードをおやつ感覚で与えるか、腎臓病に対応した専用のトリーツなどを利用しましょう。野菜類もおすすめです。

ハムやウインナーなどの加工食肉製品、ちくわ、カマボコなどの魚肉練り製品には、リン酸ナトリウムという食品添加物が使用されていることがあります。このリンは非常に吸収率が高く危険なので、腎臓病のわんちゃんには与えないようにしましょう。

 

リン吸着剤

f:id:vet-nutrition:20200226221507j:image

療法食だけではリンのコントロールができなくなってきた場合、リン吸着剤という薬を使います。リン吸着剤は食餌に含まれるリンと腸の中で結合して、吸収できなくしてしまう薬です。そのため食餌と一緒に与えるか、食餌から時間をあけずに服用させる必要があります。

いくつかのタイプがありますが、それぞれに長所と短所があります。獣医師の指示にしたがって使用しましょう。

アルミニウム製剤

リン吸着作用が強くコストが安いのが長所です。ただしアルミニウムは脳や神経に蓄積する性質があり、長期的に使うと神経の機能に異常をきたす可能性があります。胃粘膜保護剤のスクラルファートもアルミニウム製剤でリン吸着作用があります。

カルシウム製剤

アルミニウムのような神経毒性がなく、また価格も安いのが長所です。ただしカルシウムの過剰摂取で高カルシウム血症となる可能性があるため、使用中は定期的に血液検査でカルシウムの数値を確認することが必要になります。ビタミンD療法とは併用できません。

鉄製剤

塩化第二鉄がサプリメントとして利用できます。リン吸着作用とともに鉄のサプリメント効果もある程度期待できるものと考えられます。医薬品ではクエン酸第二鉄が利用できますが非常に高価です。

炭酸ランタン

炭酸ランタンは効果の強さと副作用の少なさから最も優れた薬の一つです。実験動物ではシュウ酸の吸収を抑制することが報告されているため、シュウ酸カルシウム結石のリスクがある子にはより適しているかもしれません。

コストが非常に高いことが欠点でしたが、ジェネリック医薬品が普及して比較的使いやすくなっています。

塩酸セベラマー

イオン交換樹脂というタイプの薬です。リン吸着効果はそれほど高くなく、量が多く必要なのが欠点です。副作用は少ないとされますが、便秘や高カルシウム血症が報告されています。

キトサン

キトサンは主にカニの殻から作られる動物性の食物繊維です。プラスの電気を帯びているという食物繊維としては特異な性質を持っており、リンなどマイナスの電気を持つ物質を吸い付けることができるとされます。他のリン吸着剤と比べると効果はあまり高くなく、便秘傾向になるなどの欠点もありますが、安全性は高いと考えられます。

 

モニタリング

f:id:vet-nutrition:20200226222719j:image

血清リンの数値は安定するまでに時間がかかるため、療法食やリン吸着剤の種類・量を変更したときは、1ヶ月単位で血液検査をして治療効果を評価していきます。あまり早い段階で判断をしてしまうと、本来必要な治療よりも過剰に薬を使ってしまう可能性もあります。なお、血清リンは食後に上昇することがあるので、血液検査をするときは半日絶食にすることも大切です。

 

リン吸着剤の不適切な使い方

リン吸着剤は「療法食だけでは血清リンがコントロールできなくなってきたときに、療法食と併用して使う」ことが原則です。これ以外のやり方でリン吸着剤を使ってもあまり効果は期待できないかもしれません。具体的には次のような使い方をされているケースが見受けられます。

①初期の腎臓病での使用

血清リンが上昇していない初期の腎臓病では、リン吸着剤には何らの効果も証明されていません。初期の段階では通常、療法食だけで十分に血清リンのコントロールが可能であり、リン吸着剤を併用すると過剰治療となる危険性もあるかもしれません。

②高リン食との併用

進行した腎臓病に対して、リン含有量の多い食餌を与えている場合、吸着剤だけで血清リンを正常化するのは困難であるとされています。あるいは可能だとしても相当の量が必要になり、副作用が出る可能性が高くなります。進行した腎臓病の子には必ず療法食を使いましょう。リン吸着剤は療法食の代わりにはなりません

③急性腎傷害での使用

体調が悪くなっている急性期にリン吸着剤を使うのも適切ではない場合があります。リンは尿毒素とは異なりそれ自体に有害な作用はありません。したがって血液検査でリンの数値が高くなっていても、これは症状とは直接関係がありません。当然ながらリン吸着剤は食欲不振や嘔吐などの症状を改善する薬でもありません

むしろ食餌にまぜることで食欲を減退させてしまい、結果として不利益をもたらす可能性もあります。血清リンの管理は慢性期の安定した患者さんに対して行うのが原則です。

 

おわりに

f:id:vet-nutrition:20200309212902j:image

腎臓病ではリン制限が重要です。しかし、"リン=悪"というイメージが先行して、不適切な治療が行われるのもまた問題であると考えています。リンが大切な栄養素であるという事実は、腎臓病であろうとなかろうと変わりません。

市販されている腎臓用のサプリメントにはリン吸着剤を含むものが少なくありません。しかし、リン吸着剤は使い方を誤れば健康を害する可能性もあるものです。法律上はサプリメントであったとしても獣医師の監督下で使用することが大切です。飼い主の皆様には自己判断で使用することのないようにお願いしたいと思います。

 

 【免責事項】

記事は現在の獣医学的知見に照らし、標準的と思われる内容を記載していますが、個別の患者様に対する効果を保証するものではありません。実際の治療にあたっては、かかりつけの獣医師と相談のうえ、指示にしたがって行ってください。