腎臓病のわんちゃんの食餌療法になくてはならない栄養素、"オメガ3脂肪酸"について解説します。
EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は魚の脂肪に豊富に含まれる必須脂肪酸であり、総称として"オメガ3脂肪酸"と呼ばれています。
オメガ3脂肪酸には腎臓病の進行を抑える効果があることが明らかになっており、今やほとんどの腎臓病用療法食でオメガ3脂肪酸が強化されるようになっています。
オメガ3脂肪酸には全身の炎症を抑える効果があり、腎臓病のわんちゃん対しては尿タンパクを減らして腎臓組織の変性をおさえ、結果として腎機能の低下を遅らせることが研究によってわかっています。手作りごはんの場合でも、腎臓病のわんちゃんには必ずオメガ3脂肪酸を強化してあげるようにしましょう。
オメガ3脂肪酸を強化するためには、食材として魚を使うか、またはフィッシュオイルのサプリメントを使うことができます。今回はサプリメントの選び方・使い方について解説していきます。
目次
フィッシュオイル
魚から脂肪成分を抽出したものが"フィッシュオイル"です。サプリメントとして世界的に広く利用されているので、飼い主さん自身が飲んでいるケースも多いのではないでしょうか?
腎臓病のための手作り食では、サプリメントというよりも"食材の一部"という感覚でフィッシュオイルをレシピに組み込んでいます。
フィッシュオイルには基本的にEPAとDHAが両方とも含まれていますが、製品によってその割合が違うことがあります。原料となる魚の種類によって脂肪酸のバランスが異なるためで、イワシやニシンなどの小型の魚が原料のものはEPAが多め、マグロなどの大型魚が原料のものはDHAが多い傾向にあるようです。
腎臓病のわんちゃんに使うときは、EPAを多く含むタイプのものをおすすめしています。抗炎症作用でいうとDHAよりもEPAのほうが直接的な効果が期待できるからです。
なお、フィッシュオイルのサプリメントは多くの製品がゼラチンカプセルを採用しています。ゼラチンは栄養価の低いタンパク質であり、老廃物のもととなってしまうので、できれば中身だけを使用するのがよいでしょう。粒のサイズが小さいものは扱いにくいので、1粒1gのアメリカンサイズのものが使いやすいです。
オメガ3濃縮タイプ
少しコストが高くなりますが、通常のフィッシュオイルを精製してEPAとDHAの含有量を高めている製品もあります。
このタイプのものは、より少ない量でオメガ3脂肪酸を強化できるので、例えば"すい炎"のような、脂肪の制限をしなければならない疾患を併発しているときに活用することができます。
決して"濃いほうがいい"というものではなく、脂肪の制限が必要なければ通常タイプのもので十分です。当ブログで単に"フィッシュオイル"と言った場合は濃縮されていない通常タイプのものを指しています。
サーモンオイル
サーモンから抽出したフィッシュオイルは、強力な抗酸化物質である"アスタキサンチン"を含んでいるという特徴があります。
EPAとDHAの含有量だけでいうと青魚には劣りますが、アスタキサンチンによる高い抗酸化作用が期待できるので、通常のフィッシュオイルのかわりに(あるいは組み合わせて)用いるのもいいかもしれません。
サーモンオイルには液体のままボトルに入って販売されている製品もありますが、空気に触れやすく酸化しやすいのではないかという懸念があるので、できればカプセルに入っているものをおすすめします。
クリルオイル
"クリル"とは"オキアミ(エビに似た甲殻類)"のことで、こちらもアスタキサンチンを含んでいます。オメガ3脂肪酸も豊富に含まれているので、一見するとサーモンオイルと同じようなものに見えてしまいます。
しかし、甲殻類の特性なのか、その油にはかなりの"リン脂質"が含まれています。腎臓病で制限すべきリンを含んでいるため、腎臓病の子に対してクリルオイルを与えることはおすすめしません。使用量が少なければ大きな悪影響はないかもしれませんが、わざわざ選ぶメリットは少ないと思われます。
アマニ油・えごま油
亜麻仁油やエゴマ油には"αリノレン酸"が多く含まれています。αリノレン酸はEPAやDHAと同じオメガ3系の脂肪酸ですが、抗炎症作用を発揮するためには体内でEPAに変換される必要があります。そして全てがEPAに変換できるわけではないので、EPAやDHAと比べるとαリノレン酸の効果は劣るものと考えなければなりません。
フードやサプリメントなどで"オメガ3脂肪酸を強化"などとうたっている製品がありますが、原料にアマニなどが含まれていないか注意して見てみましょう。αリノレン酸が多く含まれていると、"見かけ"のオメガ3脂肪酸の量は多くても、EPA/DHAと同レベルの効果は期待できない可能性があります。
手作りごはんにアマニ油やエゴマ油を使っていいか?という疑問に対しては、「使っても問題はないけど、腎臓病に対してより高い効果を期待するならフィッシュオイルの方が良い」ということになります。フィッシュオイルと組み合わせて使うこともできますが、どうせ使うならアマニ"油"ではなく、粉末状に加工されたアマニ自体を使くことをおすすめします。食物繊維など他の栄養素も一緒に摂ることができるからです。
適切な摂取量は?
では、オメガ3脂肪酸はどのくらいの量を摂取するのが一番いいのでしょうか?
実はこれがわかっていません。少なすぎればもちろん効果は期待できませんが、かといって多ければ多いほどいいというものでもありません。
明確な摂取量の基準はないので、はっきりしたことは言えないのですが、それでも何か一定の目安がないと手作り食の設計をすることもできませんよね?
私の場合は、様々な文献や市販療法食の成分データを参考にして、暫定的に次の2つの基準を目安としてレシピを設計しています
①EPA+DHA(αリノレン酸を含まない)として「1000kcalあたり1〜2g」
②総オメガ6脂肪酸:総オメガ3脂肪酸(αリノレン酸を含む)=1:1〜2:1
科学的に「これが正しい」という基準ではありませんので、あくまでも現時点での1つの参考と考えてください。
オメガ3脂肪酸は酸化に弱い
たいへん健康効果の高いオメガ3脂肪酸ですが、実は大きな欠点があります。それは非常に"酸化"に弱いということです。
そのため保存や調理にも気をつかう必要があります。できるだけ空気にふれないように密閉して保存すること。そして調理するときはなるべく加熱しないように気をつけてください。
酸化されやすいという性質は、体内に入ってからも同じです。体内では細胞の呼吸によって発生する"活性酸素"によって、脂肪酸が酸化されてしまいます。
これを防ぐためには、"抗酸化物質"を一緒に摂取することがとても大切です。抗酸化物質として代表的なものにビタミンE、ビタミンC、そしてβカロテンやアスタキサンチンなどのカロテノイド類、各種ポリフェノール類などがあります。
サプリメントのフィッシュオイルには酸化防止剤としてビタミンEが添加されていますが、他の食材からも積極的に抗酸化物質を摂取するようこころがけましょう。ビタミンCやカロテノイド類は"にんじん"や"かぼちゃ"などの緑黄色野菜に、ビタミンEはひまわり油やごまなどの植物油・種実類に豊富に含まれています。
おわりに
オメガ3脂肪酸は、腎臓病の進行を遅らせることができると考えられている数少ない栄養素のひとつです。ぜひ積極的に摂取するようにしましょう。当ブログで紹介している手作り食レシピはすべてオメガ3脂肪酸を強化していますので、参考としてください。
また、オメガ3脂肪酸は腎臓病だけではなく、関節炎、心臓病、皮膚炎、認知症の進行防止…およそ"炎症"が関わっているほとんどすべての疾患に対して効果が期待できます。シニア期になったら、何も病気がなくても健康維持のために積極的に摂取するといいかもしれません。
オメガ3脂肪酸は人間に対しても高い健康効果が期待できます。飼い主さんもわんちゃんと一緒に健康増進を目指すのもいいかもしれませんね。
【免責事項】
紹介したサプリメントの使用方法は、すべての腎臓病の患者さんに適したものであることを保証するものではありません。かかりつけの獣医師の指導のもとで使用してください。ご利用は自己責任でお願いします。