食物アレルギーのあるわんちゃんの腎臓病食餌療法の考え方を解説します。
わんちゃんの食物アレルギーには、皮膚のかゆみや赤み、脱毛などを症状とする皮膚炎タイプと、下痢や嘔吐などの消化器症状を示すタイプがあります。両方が同時に見られることも少なくありません。
多くの場合、タンパク質がアレルギーの原因物質(アレルゲン)となるため、食物アレルギーと診断されたときは、その原因タンパク質を含まない食餌を与えることが治療の基本になります。
腎臓病になっても基本の考え方は変わることはありません。アレルゲンとなる食材を避けつつ、腎臓病に配慮した栄養バランスの食餌を与えればいいのです。食物アレルギーと腎臓病の食餌療法は十分に両立可能ですので、どちらかをあきらめる必要は基本的にありません。
このページでは食物アレルギーのわんちゃんが腎臓病と診断されたとき、どのように食餌を選べばいいのか?詳しく紹介していきます。
目次
- 食物アレルギー用療法食
- アレルギー対応の腎臓病用療法食
- アレルギー対応腎臓病用手作り食
- アレルゲンの交差反応
- 腎臓病療法食でアレルギー発症
- 野菜・フルーツのアレルギー
- アトピー性皮膚炎とIBD
- おわりに
食物アレルギー用療法食
食物アレルギーで療法食を食べている子が腎臓病と診断されたとき、どうしたら良いのでしょうか?アレルギーに配慮されていない、通常の腎臓病用療法食に切り替えてしまうと、再びアレルギー症状が出てしまう可能性がありますので、安易に変更することはできません。
まずは、腎臓病用療法食が本当に必要なのか?から考えましょう。実は、アレルギー用の療法食はもともと中程度にタンパク質が制限されており、他にもオメガ3脂肪酸が強化されているなど、腎臓病にも適した栄養組成になっているものが多いのです。
初期の腎臓病であればそのまま同じフードを食べていても問題ないかもしれません。腎臓病用療法食を始めるタイミングについては獣医師の判断を仰ぎましょう。
ただし、早期発見できた場合であっても、いずれ腎臓病は進行していくと考えられますので、そうなった時に何を食べさせるかは考えておく必要はあるでしょう。
アレルギー対応の腎臓病用療法食
進行した腎臓病ではアレルギー用の療法食では対応することができなくなります。この場合、まずは既存の腎臓病用療法食のなかで、アレルゲンを含んでいないものがないか探してみることをおすすめします。
市販の療法食で腎臓病と食物アレルギーの両方に対応した製品は少なく、利用できるものは限られていますが、以下の製品を参考に挙げておきます。
主原料:米、加水分解大豆タンパク
加水分解とはタンパク質を人工的に分解して、アレルギーを起こしにくくさせる手法です。ただし、大豆にアレルギーがある場合はわずかに残っている成分に反応してしまうことも考えられますので注意しましょう。米はそのまま使用されています。実はお米にアレルギーがあるわんちゃんは日本では少なくありません。この製品は米アレルギーの子には当然使うことはできませんので注意しましょう。こちらは動物病院専売品です。購入は動物病院で相談してください。
【アニモンダ インテグラプロテクト腎臓ケア(ニーレン)】
グレインフリーの療法食。麦、米、トウモロコシなどの穀物にアレルギーがある場合に選択できます。
【monge ベッツソリューション腎臓サポート】
こちらもグレインフリーなので、穀物アレルギーに使用できます。牛・豚などの獣肉も使用していません。
アレルギー対応腎臓病用手作り食
アレルゲンの種類によっては、市販の療法食がどれも使えないという場合もあるかもしれません。あるいは理屈の上では大丈夫でも、実際食べてみるとアレルギー症状がでてしまったというケースもあるかもしれません。そのようなときは手作りごはんで対応するしかありません。
手作り食の場合、"アレルゲンでないことがすでにわかっている食材"か、もしくは"アレルゲンの食材とできるだけ生物学的に遠い食材"を使ってレシピを設計します。詳しくはレシピページを参照してください。
アレルゲンの交差反応
アレルギー反応はアレルゲンに似た別のタンパク質に対しても起こることがあり、これを交差反応といいます。例えば牛肉にアレルギーのある子の場合、ラム肉や鹿肉、牛乳にもアレルギーを起こすことがあることが知られています。これは羊や鹿が牛と同じ偶蹄類に属する動物であり、タンパク質の構造が似ているためであると考えられています。もちろん、牛はだめでも鹿は大丈夫という子もいるのですが、一定の割合の患者さんは交差反応によるアレルギー症状を起こしてしまうと考えられます。食物アレルギーの食餌療法を成功させるためには、できるだけアレルゲンと生物学的に遠い食材を選ぶことが大切です。
例えば牛肉にアレルギーがある場合、ラムや鹿、豚などよりも魚ベースのごはんのほうが交差反応を起こす可能性は低くなると考えられます。同様に、例えば米にアレルギーがある場合、同じイネ科植物である小麦や大麦、トウモロコシなどは交差反応を起こす可能性があるので、生物学的により遠い関係にあるイモ類や豆類を使うのがよい、ということになります。療法食を選ぶとき、または手作り食の食材を選ぶときの考え方として参考にしてください。
腎臓病療法食でアレルギー発症
あまり一般的なケースではありませんが、腎臓病用療法食に変更した後で、それまでなかったアレルギー症状が現れることも考えられます。
原因の1つは、アレルギー体質自体は以前からあったけれども、今まで食べていた食餌にたまたまアレルゲンが含まれていなかったというケース。過去にアレルギー症状があった可能性が高いと思われますが、そのことを忘れていたり、譲り受けた子で過去の状況がわからない場合などに想定されます。
2つ目は、全く新規に食物アレルギーを発症するケースです。食物アレルギーは必ずしも若いうちから発症するものとは限らず、ある程度年をとってから発症することもあります。(ただし、高齢になってから突然発症した皮膚炎は、実はアレルギーではなく皮膚がんなど他の病気だったということもありえます。自己判断はせず必ず獣医師の診察をうけてください)
いずれの場合でも食物アレルギーを発症してしまったからには、ごはんを変更する必要があります。今食べている療法食にアレルゲンとなる成分が含まれているはずですので、よく原材料をチェックして、違う原材料でできている他の療法食に変更してみるのがよいでしょう。
野菜・フルーツのアレルギー
腎臓病のわんちゃんのためのおやつとして、生野菜やフルーツは基本的にはおすすめできる食材です。しかし、実はこれらにもアレルギー反応を起こしてしまう子がいます。
残念ながら、野菜やフルーツに対するアレルギーを高い精度で診断する検査はいまだ開発されていません。ただ、"花粉"と交差反応を示すものが多いということは知られています。
花粉症の人は野菜やフルーツにもアレルギーを示すことが多いことが知られています(口腔アレルギー症候群といいます)。わんちゃんでも同様に、花粉アレルギーのアトピー性皮膚炎の子が関連するフルーツを食べるとアレルギー症状が悪化してしまうことがあります。おやつも食餌の一部であることを忘れないようにしましょう。
アトピー性皮膚炎とIBD
食物アレルギーに関連して、一番こわいのは食物アレルギーが見逃されて他の病気と勘違いされているケースです。皮膚症状であればアトピー性皮膚炎、消化器症状であれば炎症性腸疾患(IBD)がそれにあたります。これらの疾患は基本的に食物アレルギーと同じ症状を示すため、症状で区別することはできません。
そしてアトピー性皮膚炎やIBDの治療には、腎臓病を進行させてしまう可能性のある薬剤が用いられることが多いのです。そのため、食物アレルギーの可能性を見落としてしまうと、本当は食餌の管理だけで良くなるはずの子に、本当は必要ない副作用の強い薬を使い続けることになります。
慢性的な皮膚の痒みや下痢などの症状があるわんちゃんでは、常に原因が食物アレルギーである可能性を頭に置いておかなければなりません。食物アレルギーを100%の精度で否定できる検査というものは存在しないので(病理検査も含みます)、すでにアトピー性皮膚炎やIBDと診断されて治療をしている場合であっても、本当に食物アレルギーではないのか?もう一度、何度でも振り返って確認してみるくらいの慎重さが必要だと思っています。
おわりに
食物アレルギーはアレルゲンを除去してあげることさえできれば、大きく症状が改善することが期待できます。そうなれば、単純な腎臓病だけの子となんら変わるところはありません。
しかし、食物アレルギーの管理は決して簡単ではないということも強調しておかなければなりません。どんなにわずかであってもアレルゲンを摂取すれば症状が出てしまう可能性があるので、毎日の生活の中で常に細心の注意を払う必要があるからです。
食物アレルギーの診断と治療には飼い主さんの理解と協力が不可欠であり、決して獣医師だけ薬だけで治せるものではありません。食物アレルギーのわんちゃんの飼い主さんには、"自分が治すのだ"という強い意志を持っていただきたいと思います。
【免責事項】
記事は現在の獣医学的知見に照らし、標準的と思われる内容を記載していますが、個別の患者様に対する効果を保証するものではありません。実際の治療にあたっては、かかりつけの獣医師にご相談ください。