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心臓病と初期腎臓病の犬のための手作り食レシピ

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心臓病と初期の腎臓病を併発したわんちゃんのために。中程度のタンパク質を含むレシピを紹介します。

心臓病は犬ではとても多い病気です。そして、心臓病の治療をしていると、徐々に腎臓の機能も低下してくることは、よく経験することです。心臓は全身に血液を送り出すポンプとして働いているため、心機能が低下すると腎臓に流れていく血液の量も減ってしまうからです。心臓病の治療中に腎臓の機能が低下してきたとき、あわてて腎臓病用の療法食を始めたくなるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。実は、このやり方は適切ではないかもしれません。

心臓病では代謝の変化によってタンパク質の消費量が増えるため、食餌から十分な量のタンパク質を摂取することが望ましいと考えられています。一方、一般的な腎臓病用の療法食はタンパク質が制限されているため、これではタンパク質が不足する可能性があるのです。腎臓病用の療法食は、より病状が進行した状態を想定したものです。初期の腎臓病では必ずしも厳しいタンパク制限をする必要はありません。

腎臓病の進行は抑えたいけど、でも心臓病のためにタンパク質は十分に与えたい。今回はそんな患者さんのために作成したレシピをご紹介します。なお、このレシピは心臓病がない場合の初期の腎臓病、あるいは一般的な高齢期の食餌としても適しています。

 

適用条件

このレシピの使用にあたり、いくつか前提となる条件がありますので、先に確認しておきましょう。

 

  1. 尿毒症症状のない初期の腎臓病であること
  2. タンパク尿がないこと
  3. 低タンパク食から切り替える場合、症状悪化の可能性があるため注意すること

 

このレシピはすでに尿毒症症状のでている、中等度(ステージ3)以上の腎臓病には対応していません。この場合は通常の腎臓病用レシピを使用してください。

初期の腎臓病であっても、尿中にタンパク質が漏れだす、タンパク尿になっている場合は低タンパク食が推奨されます。この場合も通常の腎臓病用レシピを使いましょう。

すでに腎臓病用療法食のような低タンパク食を食べている場合、切り替えには注意が必要です。腎臓病の状態によっては症状の悪化がみられる可能性があるからです。実際、問題は起きないかもしれませんが、事前に予測することは難しいので低タンパク食からの切り替えは獣医師の監督下で慎重に行ってください。

 

材料

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とり胸肉(皮なし)                        200g
ごはん                                           350g(1合)
ひまわり油(オレインリッチ)   大さじ2  
野菜類                                          150gまで      
 昆布茶                                           小さじ1/2
減塩しお                                      0.5ml
炭酸カルシウム                           2ml
 フィッシュオイル            5カプセル
マルチビタミン                    成人1日量
マルチミネラル                           成人1日量
亜鉛                                     成人1日量

   

作り方

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①皮を外して細かく刻んだ鶏むね肉、好みの野菜類、ひまわり油、昆布茶、水1カップを火にかけます。見本では、にんじん、かぼちゃ、チンゲンサイミニトマト、パセリを合計150g使用しました。

 

②具材に火が通ったら火を止め、炊飯したごはんを加えます。

 

③粗熱をとったらフィッシュオイル他、サプリメント類を加えます。

 

栄養組成

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(単位:g/1000kcal) 腎臓病用療法食 このレシピ
タンパク質          35〜40 58
脂質                     45~50 38
EPA+DHA       1.2~1.9 1.6
カルシウム             1~1.5 1.1
リン                        0.5~0.9 0.6
カリウム                1.5~2.2 1.1
ナトリウム            0.3~0.9 0.4

このレシピの計算上の総カロリーは960kcalです。※野菜を除く 

 

 

ナトリウムについて

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かつて、心臓病の良い薬がなかった時代には、極端に塩分を制限した食餌=超低ナトリウム食が使用されることがありました。(心臓病の治療薬が格段の進歩を遂げたこともあり、最近はあまり使われることはなくなりました。)

一方、腎臓病では、ナトリウムの排泄量を調整する機能も低下してくるため、ナトリウムは多すぎても少なすぎてもいけません。適切な量に調整する必要があります。

超低ナトリウム食は血液量を減少させる恐れがあるため、腎臓病の子にとってはリスクがあります。特にある種の心臓病の薬と併用した場合にこの傾向は強くなります。そして、手づくり食ではこの超低ナトリウム食が簡単に作れてしまいます。例えば、今回のレシピから昆布茶と減塩しおを除くと、ナトリウム量は0.1g/1000kcalとなり、栄養基準最低量の半分という超低ナトリウム食になってしまいます。

 "犬に塩分は必要ない"という迷信、"塩分は悪"という誤った認識は愛犬を傷つけるかもしれません。ぜひ正しい知識を身につけて、大切なわが子を守ってあげてください。

 

おわりに

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腎臓病が初期の段階であれば、今回紹介したレシピのように、両方に対応する食事を設計することもできますが、腎臓病が進行してしまうとこれも難しくなってきます。腎臓病が進行して尿毒症の症状が見られはじめたら、迷わず通常の腎臓病用レシピに変更してください。

心臓病の治療において、最も効果が期待できるのは薬物療法であり、食餌の果たす役割はそれほど大きくありません。この点は食餌療法がメインになる腎臓病とは違うところです。また、心臓と腎臓は互いに関連しており、どちらか一方が悪化すれば、もう一方も悪くなる、という関係にあります。したがって、腎臓病の進行を抑えるためには、心臓の薬を正しく服用していくことが何よりも重要です。信頼できる獣医さんとタッグを組んで、この難敵に立ち向かっていきましょう!

 

【免責事項】

紹介したレシピは、すべての腎臓病および心臓病の患者さんに適したものであることを保証するものではありません。かかりつけの獣医師の指導のもとで使用してください。ご利用は自己責任でお願いします。無断転載はご遠慮ください。